ODAWARA ART FOUNDATION

パリ・オペラ座 2019/2020シーズン オープニング
「HIROSHI SUGIMOTO / WILLIAM FORSYTHE」
杉本博司 演出「At the Hawk’s Well/鷹の井戸」
公演 終了

日程:2019年9月22日(日)~10月15日(火)
会場:Opéra National de Paris, Palais Garnier(パリ・オペラ座 ガルニエ宮)

お知らせ

イントロダクション

パリ・オペラ座が350周年を迎える今年、2019/2020年シーズンプログラムのオープニング作品として、杉本博司演出による「At the Hawk’s Well/鷹の井戸」(ウィリアム・バトラー・イェイツ原作)がオペラ・ガルニエ宮にて上演されます。アイルランドの詩人・劇作家ウィリアム・バトラー・イェイツが能楽に影響を受けて執筆した戯曲「At the Hawk’s Well/鷹の井戸」を原作に、音楽・空間演出に池田亮司、振付にアレッシオ・シルベストリン、衣裳デザインにリック・オウエンスを迎え、パリ・オペラ座のバレエダンサーとの初のコラボレーションに臨みます。
本作品は、ウィリアム・フォーサイスが作曲家ジェームズ・ブレークの曲を用い、オペラ座バレエ団のために創作した最新作「Blake Works I」と2本立てで上演されます。

パリ オペラ・ガルニエ宮 「At the Hawk’s Well/鷹の井戸」解説
杉本博司

Opticks 020, 2018, Type C print ©Hiroshi Sugimoto

今を遡る100年ほど前のこと、日本の古典演劇である能が初めてアイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イエイツの心を激しくとらえました。イエイツは神秘主義者でした、そしてケルトの神話や伝説に惹かれていましたが、日本の能の形式、古の死者の霊を舞台に呼び戻すという幻想劇に、ケルトの神秘と響き合うものを直感したのでした。

日本の幻想劇である能の初期の英訳テキストをイエイツに紹介したのは詩人のエズラ・パウンドでした。そしてエズラ・パウンドに能を知らしめたのはボストン近郊生まれのアーネスト・フェノロサでした。フェノロサは日本が鎖国を解き西洋文明を受け入れるために開国した19世紀半ばに来日し、西洋化を急ぐあまり自国の文化を捨てようとしていた日本人に日本文化の素晴らしさを再認識させ、多くの文化財を破却から救ったことで知られています。古典芸能の能も風前の灯火でしたが、フェノロサは当時の能の名手、梅若実に自ら教えを乞うたのです。フェノロサの死後能の英訳テキストは未亡人によってボストンに渡り、そこで夫人はエズラ・パウンドに会うことになるのです。

イエイツは能に触発され「鷹の井戸」を書きました。ケルトの若き王子クーフリンは絶海の孤島にある井戸に湧く水を求めてこの島にやってきます。この水を飲めば永遠の命が与えられると言われています。しかしこの島には鷹の精の女が井戸守りをし、もう一人50年も水が湧くのを待った老人がいました。老人はクーフリンに言います。50年待ったが三度だけ水が湧いた、しかしその度に、鷹が舞い、老人は眠りに落ち水を飲むことは叶わなかったと。そしてまさにその時鷹が叫びをあげ舞い始めます。クーフリンは鷹を追い老人はまた眠りに落ちるのです。

「鷹の井戸」は舞踏劇として1916年ロンドンのLady Islington邸においてアレクサンドリア女王をはじめとした、貴顕の紳士淑女の前で上演されました。戦後この曲は日本で能形式の曲「鷹姫」として横道萬里雄により改作され上演されました。今回のパリ・オペラ ガルニエ宮公演は、この曲がもととなって、百年をかけて改作されながら世界を一巡りし、今回はバレエの曲となって、オペラ座の素晴らしいダンサー達とともに、イエイツの魂を再び舞台上に呼び戻す試みなのです。果てしない海の彼方にその井戸はあります。果たして我々の文明は永遠の命を与えられているのかは不明です。

※本テキストはパリ・オペラ座公式ビデオにて、杉本博司が朗読したものです。
「At the Hawk’s Well」PV英語字幕版: https://www.youtube.com/watch?v=3Yy2ezq2mOA

概要

公演タイトル:  「At the Hawk’s Well」(邦題:『鷹の井戸』)
会場:      Opéra National de Paris, Palais Garnier(パリ・オペラ座 ガルニエ宮)
公演期間:    2019年9月22日(日)~10月15日(火) ※全17公演
チケット発売:  online: https://www.operadeparis.fr / tel: +33.1.71.25.24.23(海外専用)

<制作>
舞台・照明演出: 杉本博司
音楽・音響制作: 池田亮司
振付:      アレッシオ・シルベストリン
衣裳:      リック・オウエンス
ビデオ制作:   杉本博司・池田亮司
照明:      杉本公亮
技術アシスタント:徳山知永
原作:      ウィリアム・バトラー・イェイツ

制作協力:    小田原文化財団
特別協賛:    全日本空輸株式会社 
        

<出演>(ダブルキャスト) ※変更になる可能性もあります

鷹姫
Amandine ALBISSON   / アマンディーヌ・アルビッソン
Ludmila PAGLIERO    /リュドミラ・パグリエロ

クーフリン
Hugo MARCHAND    /ユーゴ・マルシャン
Axel Magliano      /アクセル・マグリアーノ

老人
Alessio CARBONE    /アレッシオ・カルボーネ
Audric BEZARD     /オドリック・ベザール


観世銕之丞
梅若紀彰

<出演者 プロフィール>

観世銕之丞
観世流シテ方能楽師。重要無形文化財総合指定保持者。1956年、八世観世銕之亟静雪(人間国宝)の長男として東京に生まれる。伯父の観世寿夫及び父に師事。父の後を受け、2002年九世銕之丞を襲名。日本芸術院賞、紫綬褒章を受賞。公益社団法人能楽協会理事長。公益社団法人銕仙会理事長。学校法人瓜生山学園京都造形芸術大学評議委員。

梅若紀彰
観世流シテ方能楽師。重要無形文化財総合指定保持者。1956年、故55世梅若六郎の孫として生まれ、祖父並びに現56世梅若六郎玄祥(人間国宝)に師事。古典はもとより新作能にも積極的に取り組み、海外公演にも多数参加。能楽協会会員。梅栄会主宰。

<制作 プロフィール>

杉本博司/舞台・照明演出

1948年東京生まれ。1970年渡米、1974年よりニューヨーク在住。活動分野は、写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐に渡り、世界のアートシーンにおいて地位を確立してきた。杉本のアートは歴史と存在の一過性をテーマとし、そこには経験主義と形而上学の知見をもって、西洋と東洋との狭間に観念の橋渡しをしようとする意図があり、時間の性質、人間の知覚、意識の起源、といったテーマを探求している。世界的に高く評価されてきた作品は、メトロポリタン美術館(NY)やポンピドゥセンター(パリ)など世界有数の美術館に収蔵。代表作に『海景』、『劇場』、『建築』シリーズなど。
2008年に建築設計事務所「新素材研究所」を設立、IZU PHOTO MUSEUM(2009)、MOA美術館改装(2017)などを手掛ける。2009年に公益財団法人小田原文化財団を設立。2017年には構想から10年の歳月をかけ建設された文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」を小田原市江之浦にオープン。古美術、伝統芸能に対する造詣も深く、演出を手掛けた『杉本文楽 曾根崎心中付り観音廻り』公演は海外でも高い評価を受ける。主な著書に『苔のむすまで』、『現な像』、『アートの起源』、『空間感』、『趣味と芸術-謎の割烹味占郷』。1988年毎日芸術賞、2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2009年高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞。2010年秋の紫綬褒章受章。2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲。2017年文化功労者。

池田亮司/音楽・音響制作

1966年、岐阜県生まれ。パリと京都を拠点に活動する。電子音楽作曲家ならびにビジュアルアーティストとして、数学的な美と精度を組み合わせるツールを駆使し、音と映像と光が持つ本質的な特性を追及している。音響、映像、物質、物理現象、数学的概念の精緻な構成を用いたライブ・パフォーマンス、インスタレーションを発表。音楽活動に加え、インスタレーション、パフォーマンス、書籍、CD制作などの長期プロジェクトにも取り組んでいる。2018年初めには、『music for percussion』(CD+ブックレット形式)のリリースに合わせて、codex | editionと名付けられた自身のサイトを立ち上げた。2017年から2018年には、ポンピドゥ・センター(パリ)、アイ・フィルムミュージアム(アムステルダム)などで個展を開催し、MONA(オーストラリア、タスマニア)で常設インスタレーションspectraを発表。2017年、ロサンゼルスのRed Bull Music Academy Festivalの委嘱で、「A [for 100 cars]」と題したシンセ・オーケストラを開催し、ウォルト・ディズニー・コンサートホール前で演奏。2019年には、オナシス文化センター(アテネ)、ヴォルフスブルク美術館(ドイツ)などで展覧会やパフォーマンスを行うと共に、台北市立美術館(台湾)で大規模な個展を開催。同年2月には、ロサンゼルス・フィルハーモニックからの新規の委嘱で、100 cymbals を発表した。現在開催中の「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」では、オーデマ ピゲの作品として制作するオーディオビジュアル三部作の第一作目である、新作インスタレーションdata-verse(データ・バース)1を含む、二作品を出品。2014年、Ars Electronica Collide@CERNを受賞。Almine Rech Gallery (ブリュッセル、パリ、ロンドン、ニューヨーク)のコラボレーター。

アレッシオ・シルベストリン/振付

イタリア生まれ。モナコ王立プリンセス・グレース・アカデミーとローザンヌのルードラ・ベジャール・バレエ学校を卒業。さらに、モンテカルロにてピアノとチェンバロを学び、トリコルド音楽(musica tricordale)という新楽派に加わり、自身の振付作品にも自ら作曲した楽曲を使う。ダンサー、振付家および作曲家として、ベジャール・バレエ・ローザンヌやリヨン国立オペラ座バレエ団で活躍。1999年から2002年にかけて、ウィリアム・フォーサイス率いるフランクフルトバレエ団に所属し、その後も定期的にフォーサイスカンパニーにゲスト出演。その他にも、リヨン国立オペラ座バレエ団、コペンハーゲン国際バレエ、フランクフルトバレエ団、東京シティ・バレエ団など数多くのダンス・カンパニーの依頼で振付を担当。ダンサーまたは振付家として、数々のフェスティバルや、ダンスビエンナーレ(ヴェネチア、東京、ソウル)にも参加。2009年には、ロンドンの「Focus on Forsythe」公演にダンサーとして参加、フォーサイスのインスタレーション作品「コレオグラフィック・オブジェクト」を東京、オハイオ州コロンバス他で演じた。また、展覧会のためにインタラクティブ・インスタレーションを制作し、フェスティバルでダンス映像作品「Map」を発表。アントン・ヒムシュタットや瀧澤 潔などのビジュアルアーティストともコラボレートしている。音楽の分野では、ピアノ曲「Frozen Music」 が、2015年にサンフランシスコの 「オーディブル・シティーズ」作曲コンペティションで一等賞を受賞。2003年より日本を拠点にフリーランスアーティストとして活動を始め、洗足学園音楽大学バレエコースで講師を務める。活動分野は多岐にわたり、能と短歌の研究も行う。2009年から、サンフランシスコ・ダンス・コンサバトリーの客員教授・振付家を務めている。
また、2016年にミシガン大学ダンス学部にゲストアーティストとして招聘された。

リック・オウエンス/衣裳

カリフォルニア州、ポータービル出身。ハリウッドに移り、1980年代のアンダーグラウンド、パンク・シーンに関心を寄せる。現在のオーティス・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで絵画を学んだ後、ロサンゼルス・トレード・テク二カル・カレッジでパターンとドレープの技術を学ぶ。1994年に自身の名を冠したラインを立ち上げ、ハリウッド大通りに面したブティックで販売スタート。その作品は、瞬く間にアリアンヌ・フィリップス、パノス・イヤパニスなどのデザイナーや、『ヴォーグ』の編集者アンドレ・レオン・タリーを魅了した。写真家コリンヌ・デイは、ただちに、カリーヌ・ロワトフェルドが編集長を務める仏版『ヴォーグ』のために、ケイト・モスとオウエンスのコレクションの撮影を企画。アナ・ウィンター率いるヴォーグ誌の支援を得て、自身初となるランウェイ・ショーをニューヨークで開催。ブランド刷新のために、フランスのファーブランド「Revillon」に起用される。2002年にメンズラインもスタート。自身の名のブランドの他に、「rickowenslilies」、「drkshdw」、ファーのライン「hunrickowens」を展開。2006年には、初の旗艦店をパリのパレ・ロワイヤルにオープンし、その後も、ロンドン、ミラノ、ニューヨーク、東京、香港、ソウルなどに路面店を出店。2004年にフランスでOwenscorp を設立し、ブランドは完全に独立。2005年7月にはファニチャーラインを発表。コレクションはその後、パリ近代美術館やロサンゼルス現代美術館に展示された。2002年には、新人デザイナー向けのペリー・エリス賞、2017年には、アメリカ・ファッションデザイナー協会(CFDA)賞を受賞。その他にも、2007年に、クーパー・ヒューイットのデザイン賞とファッション・グループ・インターナショナル(FGI)のルール・ブレーカー賞を受賞。これまでに、『L’ai-je bien descendu ?(それをうまく下せた?)』(2007年)、『Rick Owens』(2011年)、『Furniture』(2017年)の三冊の著作を出版。2017年12月には、ミラノのトリエンナーレで作品回顧展が開催された。