三茶三味によせて
柳は緑 花は紅 と昔の人は申しました。今さらのように、あたりまえのことがあたりまえのようにしてある、そのことにはっと気が付く。存在の不可思議に想い至るということが人生には肝要でございます。
柳に風とも申します。江戸の川柳に「気に入らぬ風もあろうに柳かな」というのがございます。いやなことがあっても風に身をまかせて争わない、憲法第9条の解釈でございます。もう一つ川柳「手折られる人に薫るや梅のはな」。梅の枝は折られても人によい香りをはこんでくれる、敗戦後の日本文化の指針でございます。
柳と梅、二曲の屏風の前で三味線の名曲の音色に耳を傾ける。近頃にない本物の贅沢でございます。
杉本博司